先日、樋口恵子著『老いの福袋』を読んだ。私は、著者のことは公的介護保険創設時代から現在まで、介護の在り方や女性問題などで新聞やテレビで幾度となく拝見したことがあったので、勿論、お名前は存じ上げていた。平成のゴールドプランのとき、特養などの介護居室について、高齢者といえども個人の尊厳やプライバシーもあるのだから個室にすべきと主張して、それがある程、制度に受け入れられたという話は私の記憶の中にある。当時、私は社会保障制度関連のテーマで早稲田大学で講義を持っており、その分野の研究していたので、近い将来の公的介護保険の財政問題に思いを巡らせて大変だな、と関心を持ったものだ。
これまで著者の本を読んだことがなかったので、大かたは高齢社会への不満や愚痴を書き並べたものだろう、と思って読み始めたが、これが予想に反して意外に面白かった。読み手を惹きつけるユーモアとウイットに富み、ときどきのダジャレを入れ込んだ内容で、ご自分の老いを若干自虐的ではあるが多岐にわたって語っている。
著者自身は米寿を過ぎた高齢者であるが、リハビリのためにデイサービスを利用したことはあっても、まだ介護認定も受けずに自立で頑張っているご様子。ご自分の人生において、二人の夫に先立たれて自分の人生の舵取りが大きく変わったこと、大病をして体調と人生観が変わったこと、うつ病に陥りそうになって苦労したこと、ペット(ネコ)を飼うことの喜びことなど、これを読むと高齢者の一種リアルな模擬体験ができる。また後期高齢者になると、かつての同僚や知り合い、かつての同級生などが一人ひとり亡くなり、寂しさを思えるものだと記しているのも、米寿を迎えた高齢者ならではの、現実味を帯びた感傷である。
この本には高齢者になった時にいかに生きていくべきか、“how To Live老後”という記述にあふれているので、70歳に差しかかろうとする私の世代が読むにはちょうど良い本である。その中でも、高齢者になって一番気を遣うべきは健康であるというのは当然にしても、意外と著者はお金についてもしっかりしなければならないと言う。お金を握ることは自らが主体的に生きていく重要なカギであるとも述べている。確かに80歳過ぎてから自宅を自己資金で立て替えたというから、一般の高齢者と違ってそれなりの行動力と財力・判断力もあるのに違いない。 私のサラリーマン時代のこと、数年前に定年退職した先輩が職場に遊びに来て、お茶飲み話をしたことがあるが、その先輩の先輩から、「年寄りになると、ある時からガクッと体力がなくなり、それまで出来ていたことが急に出来なくなる時がある。だから今からそれを覚悟して、やりたいことはできる時にやっていた方が良いよ。」と教訓を賜ったと言っていた。これは年齢的に出来るうちにやっておくという意味で、本書は物事に対する似たようなサバサバした割切りと、後腐れのない爽快感にあふれた著作である。
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