書評

『デジタル・ファシズム』

投稿日:2021年11月8日

堤未果という国際ジャーナリストの書いた『デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える』という本を読んだ。デジタル化が進む現代、何が起きているのか、どういう方向に進んで行くのかをアメリカのGAFAや中国の BATHの動きを中心に、日本人として日本をデジタルファシズムから守る立場で描いている。GAFAとはアメリカのグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンのことで、BATHとは中国のバイドゥ、アリババ、テンセント、そしてファーウェイのことを指している。それら巨大IT企業の動きに対して、我が国の政治家や国内外資企業がどう動いているか、その結果、どのような危機がわが国に迫っているかを語っている。

これを読むと、有史以来、当たり前だが人類の社会経済や文化はこのようなデジタル化を前提に築かれていなかったことに気づく。欧米を中心に数世紀にわたって沢山の血を流しながら築き上げられ、金科玉条のごとく尊ばれてきた自由な社会、民主主義、基本的人権などがこられのデジタル化によって見事に打ち砕かれようとしている。デジタルを制覇したものが世界を支配するということだ。

デジタル化とファシズムは親和性が高い。ナチス政権が今日のようなデジタル化を手に入れていたとしたら、本当にゾッとする。ナチス支配下のヨーロッパの人々の生体認証が取られ、人体の皮膚下の埋め込まれたチップにより、ナチスはあらゆる人々の行動を監視しただろう。そして政権に反対するレジスタンスなど危険人物はいつどこで何をしているかリアルタイムで監視することが可能だったはずだ。そういった意味では半世紀ほど遅れてきたデジタル社会に感謝すべきなのかもしれない。

デジタル化の社会支配の実像は、今の中国で行われているような信用スコア制度を見ると分かり易い。身分特質(社会的地位、犯罪歴、政治活動歴、年齢、学歴、職業など)、履行能力(過去の支払い状況、資産など)、信用歴史(クレジット、取引履歴など)、人脈関係(交友関係、相手の身分など)、行為偏好(消費の特徴など)によって個人の評価がスコア化され、権力者にとって都合の良いものと都合の悪いものに分類される。スコアが悪いと、当然、銀行からお金を借りることもできないし、航空チケットは新幹線の切符も買えないようになる。勿論、就職や転居も制限される。日本の反社勢力に対する規制のように銀行口座は作れないし、自家用車も買えない、保険も入れないと言うことで、社会的な抹殺である。

世界を支配するために進められるのは「デジタル通貨による支配」と「デジタル教育による支配」だという。通貨の支配や教育の支配という言葉はピンとこない人が多いかもしれないが、消費活動において人々の手の甲の皮膚下に埋め込まれたチップがICカードやスマホの代わりとなりあらゆる消費行動を監視するし、デジタル教育では一種類の国定教科書で1人の教師が全国の小学校一年生全員を一挙にリモート教育するという。中国や韓国の若者が独自の歴史記述の教科書で反日教育され、成人になっても反日感情が拭い切れないのと同じで、国民を一定の方向に向かわせることはいたって簡単だ。

こういうデジタル化の中で、現代社会では攻めとしての全体主義=ファシズムの流れと、守りとしての自由で民主主義の社会との激しい戦いが生まれている。その主戦場が日本であるということを知っている日本人がどれだけいるだろうか。

どちらが勝つか。個人的には当然自由で民主主義的な勢力に勝ってほしいが、全体主義のパワーはものすごいものがあり、欧米が数百年で築き上げた自由で、民主主義的で、基本的人権がある社会などそのパワーで踏みつぶすことに何ら躊躇もない。買収、脅迫、裏切り、騙しなどあらゆる犯罪的な手段を駆使して自由な社会に浸透し、政治の選挙においても一種のハッカー的手段により選挙結果を自分の都合のいいように書き換えることも不可ではない。

少子高齢社会を迎えてしまっている我が国にとって、デジタル化による究極の省エネ・効率化社会であるスーパーシティ構想など願ったり叶ったりの話であるが、その社会が別のところにコントロールされているとしたら、歓迎する人はごく少数派の人々であろう。

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