書評

『平成経済事件の怪物たち』

投稿日:2021年12月27日

 少し前の出版ですが、『平成経済事件の怪物たち』という本を読んだ。2013年の出版というから8年前の本。リクルート事件の江副浩正から始まって、政治資金規制法違反の小沢一郎事件まで、12人の政財界の有名人(経済事件の怪物たち)を扱った実録集だ。その12人の中で江副・小沢両氏に加え、住銀の天皇と言われた磯田一郎、興銀を掌で転がした尾上縫、長銀を潰した高橋治則、ファンドバブルの鬼っ子村上世彰の6人について、私は特に興味を持って読んだ。

 それぞれ興味を持ったのには理由がある。江副氏は「情報」をビジネスに変えたベンチャービジネスの天才児であり、小沢氏は政治信念や理念が何もなく、政治体制を変えることに趣味のように生きがいを感じて生きてきた男であった。

 また、住銀の磯田は住銀の“イケイケ”の体質を作った凄腕バンカーであり、私の大学時代、真面目一本鎗のある学生が、就活で住銀から内定をもらうと友人たちは銀行業界で一番厳しい銀行だから辞めておいた方が良いよ、と忠告したものだ。

 平成の一桁台の後半、尾上縫と高橋治則はともにバブル経済が崩壊して、いくつもの生保や銀行、証券会社が潰れ出し、失われた30年(10年とか20年とか言われるときがあるが、バブル崩壊の後遺症は現在もまだ続いている社会経済現象であると思うので、私は30年とする。)と言われる日本低迷時代の嚆矢に新聞を賑わした人物である。

 バブル経済の熱気については今は殆ど忘れ去られているのが、私自身30歳代中ごろのいわば働き盛りの頃であり、金融機関にいた人たちは、事業として何かに憑りつかれたように投資などの儲け話に走った。東京の山手線内側の土地価格で全米の土地を買えるという話が伝わったり、ニューヨークのロックフェラーセンターを日本の不動産会社が買い取ったという話も伝わってきた。ハワイのワイキキビーチの有名ホテルやオーストラリアのゴールドビーチの優良ホテルもほとんどが日本人に手に落ちたと伝えられ、千昌夫という歌手がそのような投資話で大儲けをして海外にホテルをいくつも所有したという話も流布した。今からは信じられないことだが長プラ・短プラ共に7~8%の金利が付いた時代だ。

 当時、私は高齢社会で生まれてくる医療ビジネスや介護などの新規ビジネスの開発チームを任されていた。その中の部下の一人が、金融資産のある会社はそれを基に金融子会社を作って、その資金を投資や運用に回し本業以外に利益を生みだすというビジネスモデルのセミナーを開催したりしていた。その彼がそのうち投資組合を組成して映画作成などに投資するようになっていた(いくつもの映画に投資したと思われるが一番ヒットした映画が「リング」)。高橋治則に関する記述に私の部下だった人物や、その彼が社長をしていた会社が出て来るので、感慨深く興味を持った。

 村上世彰はホリエモンこと堀江貴文と共にITバブル期の株式取引で世間を賑わ下せた一人であった。当時、会社は誰のものかという論争があり、村上氏は会社は株主のものだという主張の最右翼にいた人物だ。今では会社は株主のものだけでなく、会社で働く役職員や取引先や顧客など会社を取り巻く各種ステークホルダーも会社の在り方に関係していて、株主だけが独断で支配するものではないというのが通説になりつつある。

この冬一番の寒気。各ハウスではお正月の準備が進んでいます。

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